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TEDxKeioHighSchool!!アヴァンギャルドなPowerPoint制作

2018年1月18日 - Presentation
TEDxKeioHighSchool!!アヴァンギャルドなPowerPoint制作
みなさんこんにちは。
プレゼンテーションデザイナーの吉藤です。
 
本日はPowerPointの制作事例をご紹介します。2017年最後のプレゼン制作となったこの案件、いろんな要素を盛り込んでいるので、その裏側を解説したいと思います。
 
 
   

■ TEDx!本番まで5日!

2017年の暮れも押し迫った12月19日の夕方、ぼちぼち年末の作業予定を考えていたところにご一報をいただきました。ご連絡してくださったのは、福原正大氏。グローバルリーダーの育成を掲げるInstitution for a Global Society株式会社のCEO。以前、グローバル人材評価・育成のマッチングを行うアプリ「GROW」のためのPreziを制作させていただいてから(そのときのPreziはこちら)、何度かお仕事をご一緒させていただいているのですが、今回のご依頼は次のような内容でした。 
– 12分程度のプレゼン用PowerPointです。
– はい。
– 舞台は TEDxKeio 。 
– わぁ。
– 時間がなくて申し訳ない!! 本番が5日後(クリスマスイブ)です。 
– わぁ!!
ということで。笑
なんだか笑い話のように書いてしまっていますが、これは福原氏とは以前にプレゼンに関わるやり取りをさせていただいており、この方のプレゼンなら作れる!という自信があったためです。
 

■ 高校生に届けるプレゼン

早速、この日の夜中にSkypeにてお打合せをしました。福原氏からは、プレゼンで話したい内容をまとめた Word ファイルをお送りいただき、それを元にして今回のプレゼンで話したい内容をヒアリング。今回のプレゼンのポイントは、
 

1.   TEDxKeioHighSchoolということで、聞き手は高校生。これから大学生になり、世界に出ていく高校生たちに届けるプレゼン
2.  テーマは「Redesign Your Value」
3.  慶應、というそれだけでいまは評価されちゃうけど、それでいいの、という話。(実際に世界に出たときにはそれが通じなくなるという実体験)
4.  現状への正確な危機感の認識と、自分の価値を見直して、高めていってもらうように未来への希望を訴えたい
5.  TEDxではトリのプレゼン

というものです。コンテンツとしては非常に重要な内容。そして同時に、このメッセージは普通のパワポに落とし込んでしまってはきっと高校生には届かないのだろうな、とも感じました。プレゼン屋の腕の見せどころですね。
 

■ シナリオに “ない” 要素を考える

ヒアリングを終えていよいよ制作開始。これは常にそうなのですが、いきなりPCに向かうのではなくひたすら考えます。いただいた原稿を元に、僕自身が何度もプレゼンを繰り返して構成を再構築しながら、このコンテンツに最適なスクリーンにするにはどうすればいいのかをじっくりと考え抜きます。この作業に丸一日。
 
そこで頭に浮かんだのが、デザインのモチーフとしてミケランジェロのダヴィデ像を用いる、というもの。

 …と、言ってしまうと唐突すぎますが、その通り。こんな像の話なんて、福原氏の原稿には一言も出てきません。ですがこれにはちゃんと意味がありまして。

 
今回のプレゼンのように、ものの見方や考え方という抽象的な内容を話すケースでは、抽象的なイメージや文字だけでスクリーンを構成してしまうとどうしても “ふわっ” とした印象になって、聞いた後にも “なんとなくいい話だった” で終わってしまいがちです。ですが、それではあまりにもったいない。こういう場合には、何か具象化した統一モチーフを使うことで、聞き手にはより手ごたえのある印象が残り、その後の自分の取るべきアクションも想像しやすくなります。そこで今回は、そのモチーフとしてダビデ像を選びました。選んだ理由は、この像が次の3つのメタファーとして機能する、と考えたためです。
 
ミケランジェロのダビデ像、みなさんも世界史の教科書やフィレンツェの写真なんかでは目にしたことがあると思います。世界的にも有名なこの像、巨匠ミケランジェロの最高傑作ということもあって「青年期の美の究極の形状」といったように紹介されることも多いです。
 
これはまず一つめのメタファーとして「若いころ(慶應の学生である今)は、それだけで価値があると見てもらえる」ということ。
 
そしてこの像、彫刻なので当然動きませんが、世界中から観光客が訪れます。ということでこれが二つめのメタファー「自分からは何もしなくても、みんなが勝手に見に来て褒めてくれる存在」。
 
さらに三つめ。この像は非常に有名であるにも関わらず、みんな写真を撮るのは正面からだけです。後ろからの構図がどんなふうに見えるか、腕や足の筋肉の造形にフォーカスするとどれだけ美しいか、さまざまな角度から眺める人というのはあまりいません。これは「みんなが見てくれているのは一方向からだけになっていない?」という問題提起であり、この像を様々な角度から見せるようなスライドデザインにすることで、「見えていない部分、自分でさえ気がついていない部分(の美しさ)に目を向ける」というメタファーになるかな、と。
 
そして、この歴史的なマスターピースの価値をきちんと理解して、それも大切にしながらさらにその先に進んでいってほしい、という聞き手へのメッセージになれば、というのが丸一日かけて構想した今回のプレゼンテーションの設計図です。
 
 

■ PowerPoint デザイン!!

ということで、まずは仕上がりを見ていただきましょう。こんなふうになりました。

 
デザインとしては、ダビデ像という歴史的彫像に、慶応大学のロゴのカラーであるイエローを使ったちょっとポップなグラフィックを加えました。ここ数年、特にヨーロッパを中心に、”クラシックなものとモダンなものを組み合わせる”、というデザインラインがしばしば見られるので、その流行りに乗って僕も今回このスタイルを用いてみました。円や三角、四角、そしてドットといった幾何学的なモチーフを用いて「Redesign」のイメージがふくらむようにしています。
 
PowerPointとしてはかなりアヴァンギャルドというか、ちょっと遊び要素もありふざけているようにも見えるかもしれませんが、ここには「古い価値観+新しい価値観」「壊すのではなくて、発展」という真摯なメッセージも込めています。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
各スライドは、見ていて飽きないように次の動きが想像できないよう、そして彫刻の部位が自然につながるようにモーションを作りました。
 
この画像部分を実際にどう作っているかというと、ダビデ像の素材写真を用意して背景から切り抜き。そしてカラーリングを調整。完全なモノクロではなくてちょっとだけ色を残して、温かさを感じられるようにしています。そこにイエローのグラフィックを追加。
 
制作の過程ではこんな遊びみたいな案もありました。中央のメガネバージョン以外はセルフボツです。以前、『西洋史専攻のデザイナー』という記事を書きましたが、自分自身のこういうバックグラウンドも今回のデザインには活かせたかも、と思っています。ミケランジェロが見たら怒るかもしれないけど。笑
 
なお、ここまではっちゃけたデザインを(勝手に)作りこんで本番1日前に送ったとしても、福原氏ならきっとこれを活かして素敵なプレゼンをしていただけるだろう!という見込みあってのデザインです。あまり世の中で語られることはありませんが、プレゼンターとプレゼンテーションデザイナーの信頼関係、というのもプレゼン制作においてはとても大事な要素ではないかと思います。
  
 
12/22の夜にはひとまず出来上がったPowerPointの初稿をお送りして、そこからは微調整をしていきました。

実は、ダビデ像に込めたこれらのメタファーについては、初稿段階ではスライドに一切載せず、「プレゼン時の雰囲気次第でお話しいただく」or「気づく人だけ気づけばいいくらいの裏設定」ということにしていたのですが、このお話をお伝えしたところ、福原氏から「これはスライドに載せよう」というご意見をいただき、こんなふうに僕の思いまでしっかりと掲載させていただく運びとなりました。本来は裏方のデザイナーにとって、これはとてもとても光栄なことです。
 

ということで、予定通り 12/24 のTEDx当日にちゃんと間に合ったこちらのプレゼンテーションデザイン。

福原氏も無事プレゼンを終えられたとのこと。未来ある高校生のみなさんのこれからに、少しでも貢献できていたらいいな、と思います。