みなさんこんにちは。プレゼンテーションデザイナーの吉藤です。さて今日は、久しぶりにPreziの事例紹介をお届けします。
突然ですがみなさん、「バイオマス発電」という言葉、ご存じですか?
バイオマス発電というのは、従来の水力発電・火力発電・原子力発電のような大規模な電力発電と異なり、地域で発生する未利用材を原料とした小規模発電を行う発電のスタイルです。太陽光発電や風力発電とならぶ環境に優しい発電方法として取り上げられることが増えてきています。今回はこのバイオマス発電所を運営する株式会社ZEデザイン様からPrezi制作のお話をいただきました。
と、しれっと書いてきましたが、何を隠そう僕自身がお仕事をいただくまでこのバイオマス発電についてほぼ全く知識がなかったのですよ。そんな僕がどんなふうにこのPreziを作っていったのかも、今回の事例紹介のポイントです。
■ Prezi制作ヒアリング
それでは早速、制作の流れを見ていきましょう。今回はまず最初にZEデザイン株式会社の西枝社長とSkypeでお打ち合わせをさせていただき、次のご要望をいただきました。
- バイオマス発電はまだ知名度が低く、またその特徴もWebサイトで説明するにはわかりにくいものがあるので、デザインと動きを組み合わせてわかりやすく表現したい
- Preziで作りたい理由は、バイオマス発電の流れをストーリー仕立てで見せるのに適していると感じたから
- 目的は2つ。ひとつはZEデザインのビジョンの紹介、ふたつめは、バイオマス発電の具体的なワークフローの解説
- バイオマス発電所は地方での事業になるので地域の人の流れを起こす、という重要な側面があるため、その点もうまく含めたい
- 既存のパンフレットがあるので、そのデザインを使えたら使う

最後にある既存のパンフレットは、このような感じで非常にスタイリッシュ。今回制作するPreziは、”このパンフレットを動かす” というコンセプトで制作を進めました。(そもそも、僕自身がこれを制作されたデザイナー様のテイストをすごく気に入ってしまったので)
余談ですが、こんなふうに既存の配布物がある場合にはスクリーン用のPreziだけに注力すればいいのでコスト的にも時間的にも短縮できます。パンフレットを既に持っている会社様なのにプレゼンの配布資料にもう一回会社紹介を載せたりしてしまうと、情報が重複するのでとても非効率なのですよ。
■ 事前調査とシナリオ構築
さて話を戻しましょう。
今回のご依頼、最も手をかけたのは事前調査です。上に書いたように今回は全く知識のない分野。そこで、制作全体の半分程度を事前調査とインプットに割いています。もちろんどのお仕事でも最初に調査時間を設けるわけですが、特に今回は基礎知識の部分から補っていく必要がありました。元研究者だし、会計事務所時代には官公庁に出す資料用の調査とかもやっていたので、 ”知らないことを調べる” というのは毎回とても好きな工程なのですよ。今回はZEデザイン様にご提供いただいた各種資料からネット記事、資源エネルギー庁の資料など、いろんなものを読んで知識量を底上げしていきました。
そしてインプットがいっぱいになったら、次のプロセスはシナリオ構築です。パンフレットデザインと、そこから派生させるデザイン要素を想定しつつ、ストーリー性のある流れを組み立てました。
今回は、まず最初にバイオマス発電の更に向こうにある上位のビジョンを紹介する、という構成としました。これはパンフレットの冒頭でも紹介されている部分であり、西枝社長とのミーティングでも非常に強い印象を受けた部分です。”昔は、 山が荒れると川が荒れる、海が荒れる、そんな考え方があったけど、今の日本では、そういった昔ながらの里山が維持される “流れ” が崩れてしまっているんですよ。だから、その崩れてしまった部分を再生するようなエネルギー供給を作っていきたいんです” と彼が語ったコンセプトは、田舎出身の僕にとってはとてもよくわかるお話でした。
パンフレットではこのように(左側)解説されている “里山design” のコンセプトを、Preziではこんな風に表現しました。ちなみに細かいことですが水車がまわってます。
たとえば、もしこのプレゼンを「バイオマス発電とは~」で始めてしまったら、それは単に “発電所を運営する会社の紹介” という事務的な低い視点のもので終わってしまうかもしれません。けれども、このビジョンの部分を最初に見ていただくことで、「自然環境を再生するためのソリューション」としてのバイオマス発電としての意識を、見る人にも持ってもらえるように、と考えています。
そしてこのビジョンから、「バイオマス発電の概念」→「バイオマス発電のフロー」、というように詳細な情報へと落とし込みます。特にフローの部分は画面遷移とアニメーションを使うことで電気を作る流れを直感的に理解しやすく演出しました。さらに、バイオマス発電の紹介をするときにかならず質問として発生する「従来の大規模発電とバイオマス発電の違い」を、イラストを使用した対比で表現しています。
そして最後に具体的な手続きの流れなどを紹介し、クロージングではテーマカラーの緑を使って印象的
に終える、という締め方にしています。
と、…文字で書くよりも具体的に見ていただくほうがいいですね。こちらが実際のデータです。
こちらがZEデザイン様側で音声まで入れていただいた動画ファイル。こんなふうに音声解説が入ると活用の幅も広がっていいですね。
■ 既存デザインのテイストで世界を広げる
と、このように制作したPreziですが、最後はデザイン部分の裏側の話しをしましょう。
今回はパンフレットにあったデザイン要素を元に、プレゼンとして必要になるいろんなイラストを新たに描きました。描いたものはセルフボツ(笑)含めて100点ほどでしょうか。まずはパンフレットにあった動物のデザインを参考に、人のデザインを。そしてその人と組み合わせるように、いろんな産業のイラストを。発電所や蒸気タービンのデザインは、実際の発電所の写真を参考にして作りました。小さなイラストがひとつでもあれば、そこからDNAを複製するようにして同じトーンで世界を作っていくイメージですね。
これはPreziだけではなくてどのツールのプレゼンテーション制作で意識していることですが、こういうシナリオ表現とグラフィックの連携において、みんなが “想像しやすいもの” をグラフィックにするのではなくて、みんなが “想像しにくいもの” をグラフィックにするということを心がけています。
今回のケースだと、「発電所」ならなんとなく想像ができますが、発電所に材料が届く前段階での「未利用材のチップ化」 や、発電所の内側で行われている「熱分解」、そして「発生した熱の再利用」といった部分ですね。文字だけ読むとだと「ふーん」で流してしまいそうな概念を絵にして伝えていくところがプレゼンテーションデザイナーとしてのお仕事のしどころです。
ということで今回のPrezi事例、バイオマス発電所というこれまでにない分野のお仕事をさせていただきました。 あと、これはたまたまなんですがZEデザイン様が手がけておられるバイオマス発電所のひとつが僕の故郷の富山県にもあり、なんとも縁のあるお仕事でした。シンガポールという5000キロの彼方からですが、少しは地元富山に貢献できたかな、と思うとなんだか誇らしい気がしますね。それではまた。